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名古屋高等裁判所金沢支部 昭和44年(ウ)61号 決定 1969年8月13日

申請人 豊田定公

右訴訟代理人弁護士 梨木作次郎

八十島幹二

菅野昭夫

清水建夫

被申請人 北陸鉄道株式会社

右代表者代表取締役 竹内外茂

主文

被申請会社は申請人に対し昭和四四年七月以降毎月二五日限り金一五、〇四三円を仮に支払え。

被申請会社は申請人に対し金七二、五八一円を仮に支払え。

申請人のその余の申請を却下する。

申請費用は被申請会社の負担とする。

理由

申請の趣旨および理由は別紙のとおりである。

申請人提出にかかる疎明によれば、申請人が被申請会社の懲戒解雇の効力を争い、申請人主張のごとき仮処分決定ならびに一審勝訴判決をうけたこと、申請人は現在被申請会社より右仮処分決定にもとずき毎月金三〇、三三〇円の給与の仮払をうけていることが一応認められる。

右仮処分決定によれば被申請会社の申請人に対する懲戒解雇は一応無効と判断され、申請人は被申請会社との雇傭契約上の地位を仮に設定されているのであるから、申請人が被申請会社からうけるべき給与の額は被申請会社が北陸鉄道労働組合との間に締結した賃上げ並びに臨時手当についての労働協約に従い昇給ないし改訂された給与および臨時手当の支給をうくべきものであることはもとより当然というべきである。

ところで申請人提出にかかる疎明によれば、昭和四二年ないし昭和四四年の三次にわたる賃上げの労働協約にもとずく定期昇給と賃金改訂額並びに昭和四四年六月二三日妥結した臨時手当についての労働協約にもとずく夏季手当の支給額が申請人主張のとおりであることが一応認められ、申請人のうくべき現在の賃金額は一ヶ月金四五、三七三円、昭和四四年度夏季手当額は七二、五八一円となること計数上明らかである。

被申請会社は右労働協約による昇給ならびに賃金改訂、臨時手当の支給決定にもかかわらず、申請人に対しては前記仮処分による一ヶ月金三〇、三三〇円(手取り二七、二五九円)しか支払っていないこと夏季手当についても未払であることは申請人審尋の結果によってこれを窺うことができる。

してみれば、申請人は右労働協約にもとずく昇給および賃金改訂による差額並びに夏季一時金の支払を求めるにつき被保全権利を有するものというべきである。

そこで仮処分の必要性につき検討する。

およそ給与により生計を維持しているものは資産や別途収入あれば格別不当な給与不払により生活上著しい損害を蒙ることは明らかである。

申請人審尋の結果によれば、申請人は前記仮処分決定による解雇通告当時の賃金の仮払をうけているほか、他に賃産や別途収入なく、妻と幼児二人をかかえて生活に困窮しており、食料品などに未払があるほか、親戚、知友から借金して辛うじて生計を維持していることが疎明される。従って、被申請会社より前記賃金改訂分の給与ならびに夏季一時金の仮払をうけても一家四人の生計を維持するに必要な程度にとどまり、余剰を生ずる余地なきものというべく、前記仮処分決定による支給のほか、現在の給与額によって支払をうけ且つ夏季一時金の仮払をうけるべき仮処分の必要性が認められる。

しかしながら、申請人審尋の結果によれば、食料品店などの未払のうち支払請求をうけている金曽商店の分は夏季一時金にて返済可能であり、その他の未払分ならびに友人親戚よりの借金については申請人審尋後に疎明書類が追加提出されたにすぎず強く返済を迫まられている状況でもないことが窺われるので、申請人が本件仮処分申請以前にすでに発生していた給与債権(賃金改訂による差額の遡及支払分)を求める部分については、本案判決確定をまってその支払を求めれば足るものというべく、今直ちにこれが支払をうけなければならないほど切迫した必要性はないと認められる。

以上の次第ゆえ、申請人の本件仮処分申請は賃金改訂後の現在の給与額たる四五、三七三円より仮処分決定により仮払をうけている三〇、三三〇円を控除した残額一五、〇四三円につき本件仮処分申請時たる昭和四四年七月分以降毎月二五日限り仮に支払を求める部分および夏季一時金として金七二、五八一円の仮払を求める部分については無保証でこれを認容することとし、申請以前の差額分の遡及仮払を求める申請はこれを却下し、申請費用につき民事訴訟法第八九条、第九二条但書に従い、主文のとおり決定する。

(裁判長裁判官 中島誠二 裁判官 黒木美朝 井上孝一)

<以下省略>

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